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名古屋地方裁判所 平成8年(わ)446号 判決

裁判所書記官

高橋宏和

被告人

法人の名称 井上技研株式会社

本店所在地

愛知県知立市八橋町五輪八番地一

代表者

井上義和

氏名 井上義和

年令

昭和一五年三月一〇日生

本籍

愛知県知立市新池二丁目八四番地

住居

同市南陽一丁目八一番地

職業

会社役員

検察官

川北哲義

弁護人

山岸赳夫(主任)、柳田潤一

主文

被告人井上技研株式会社を罰金六、〇〇〇万円に、被告人井上義和を懲役二年にそれぞれ処する。

被告人井上義和に対し、この裁判確定の日から四年間刑の執行を猶予する。

(犯罪事実)

被告人井上技研株式会社(以下、「被告人会社」という。)は、愛知県知立市八橋町五輪八番地一に本店を置き、金属の機械加工等を目的とする資本金一、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人井上義和(以下、「被告人井上」という。)は、被告人会社の代表取締役として、その業務全般を統括していたものであるが、被告人井上は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外したり、架空の外注費を計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿したうえ、

第一 平成四年九月一日から平成五年八月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が二億四、五一六万六、〇六九円であり、これに対する法人税額が九、〇七六万八、一〇〇円であるのに、同年一一月一日、愛知県刈谷市神明町三丁目五〇一番地所在の所轄刈谷税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が三、六二五万四、六三三円であり、これに対する法人税額が一、二四二万六、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を経過させ、もって不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額七、八三四万二、〇〇〇円を免れ、

第二 平成五年九月一日から平成六年八月三一日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が三億六、二一六万五、三六五円であり、これに対する法人税額が一億三、四八七万一、八〇〇円であるのに、同年一一月一日、前記刈谷税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二、九三〇万二、二四五円であり、これに対する法人税額が一、〇〇四万八、二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま納期限を経過させ、もって被告人会社の右事業年度における正規の法人税額との差額一億二、四八二万三、六〇〇円を免れた。

(証拠)

括弧内の番号は証拠等関係カードの検察官請求番号を示す。

全部の事実につき

1 被告人井上の

(1) 公判供述

(2) 検察官調書四通(乙1ないし3、5)

2 井上泰晴、井上義照、宮崎晟の各検察官調書(甲13、14、16)

3 尾谷淳の査察官調査書六通(甲6ないし9、11、12)

4 登記簿謄本二通(乙6、7)

5 捜査報告書(甲1)

判示第一の事実につき

6 証明書(甲2)

判示第二の事実につき

7 都築健市、白濱伸隆の各検察官調書(甲15、17)

8 尾谷淳の査察官調査書(甲10)

9 証明書(甲4)

(法令の適用)

罰条 各事業年度毎に、法人税法一五九条一項(被告人会社については、更に同法一六四条一項。情状により同法一五九条二項を適用する。)

刑種の選択(被告人井上につき)

懲役刑

併合罪の処理

被告人会社につき 平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段、四八条二項

被告人井上につき 同刑法四五条前段、四七条本文、一〇条

(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予(被告人井上につき)

同刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件ほ脱額は、合計二億三一六万円余りと甚だ多額にのぼり、ほ脱率も、判示第一の犯行では八六パーセント、判示第二の犯行では九二パーセントをいずれも超える高率である。

また、犯行態様をみても、売上除外をはじめ、架空の外注費や架空の減価償却費の計上など種々の手段を用いたうえ、虚偽の請求書等の書類を作成させ、あるいは破棄させるなどして犯行の発覚を防止するための策を講じるなどしており、計画的で、甚だ悪質である。

犯行の動機にも、酌むべき点は全く見出されない。

そして、被告人井上は、本件各犯行を自ら積極的に計画し、脱税の具体的な方法を指示するなど各犯行を主導している。

ほ脱額が多額で悪質な脱税行為が厳しい非難を受けるのは当然であって、利己的で身勝手な動機から本件のごとき悪質な犯罪を主導した被告人井上の犯情は、甚だ悪い。

また、被告人井上には傷害罪や暴行罪などで罰金刑に処せられた前科が五犯あるが、本件各犯行の態様等にこれらの前科を併せ考えると、被告人井上には法軽視の姿勢が顕著に認められるといわざるを得ない。

被告人会社と被告人井上の刑事責任は、決して軽視できないというべきである。

しかし、一方では、被告人会社及び被告人井上には本件と同種の事案の前科がないこと、被告人会社が経理体制を改善し、再犯を防止するための措置を講じていること、被告人井上もともあれ反省の態度を示していること等の情状も認められる。

そこで、これらの情状を斟酌して、被告人井上に対する刑の執行を今回に限り猶予することとし、主文のとおり量刑する。

(裁判官 川原誠)

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